7 days to end with you 感想

7 days to end with youというゲームをやった。
Twitterで何人かがおすすめしてるのを見てやりたいな~と思ってたところ、Steam版が出るという事で心待ちにしていた。

結論としては、言語学や暗号解読に馴染みが薄い人であればすごく楽しめるゲームだと思う。
一方で、人工言語の文法や暗号解読にこだわるガチガチの人には、少し物足りないかもしれない。
個人的には、結構楽しめたので良かった点と惜しいかもな~という点を残しておく。
以下はすべてネタバレを含みます。

プレイ時間など

10時間くらいかけて、ノーヒントで9割くらいの単語の意味を埋めて、エンディングをいくつか見た。
思いつく選択肢は大体やりきったな~というタイミングで、攻略を見てエンディングの数を確認した。
この時点で、エンディングは1つ以外すべて到達してることが分かった。

そのあと、ある程度単語の由来についてアタリがついてたので(後述)、分かってない単語を規則に当てはめて復号し、最後にもう一度自分なりの正規ルートを見た。

良かった点

ストーリーへの没入感が良い

こういう救いがない系のループものは、ノベルゲームだとよくあると思う。
でも、言語や記憶を失ってるという設定のおかげで、考察の手順がひとつ増え、没入感を増してくれていた。
僕がプレイした時には、二週目でループしてるような気がして、三週目でこれはやってますわ、という気付きがあった。
それを踏まえて、オープニングとエンディングを眺めると、なるほどね~と思うところもあり良かった。
意味深なセリフの意味が後から分かる、というのはゲームの定番だけど、このゲームだと意味深なセリフ自体が未知の言語で、おそらくこういう意味だろうとアタリをつけて読んでみると、マジ?という気付きが得られる。
言語解読という手間がひとつはいるだけで、こうも没入感が増すのかと感心した。

ヒントがちょうどよい

ある程度内容を理解するために必要な単語は、大体わかりやすいヒントによって意味が誘導されている。
例えば数詞や否定辞、いくつかの形容詞は「その人」とのコミュニケーションの中で獲得できる。

ほとんどの単語の意味は、ある切り取られたシチュエーションの会話から推論することができる。
そのため、文法とか小難しいことを考えずに、こういう状況ならこの意味だろう、という感じに単語を埋めることができる。
仮に間違えて埋めたとしても、おかしいと気付くことができるし、間違えて意味を捉えたこと自体が重大なペナルティとなるような事件も発生しない。

気軽に単語の意味を考えて、ぽちぽち埋めて、意味が通ってきて嬉しい!という、言語獲得そのものの楽しみを手軽に感じられる良い作品だと思う。

単語帳を埋めていく気持ちよさ

本作品では、ゲーム内に単語帳があって、自分で単語の意味を埋めていくことができる。
この単語帳を埋めていく達成感は、ほかのパズルゲームだと味わえない感覚だと思う。
僕が言語獲得に関する研究に興味があるというのもあるんだけど、大人になった今、こういう言語獲得のプロセスを気軽に追体験できるのはとても貴重だと思う。

主人公の視点になって考えると、彼は言語自体を失っているので単語帳に文字を書いて埋めることはできない。
そうすると、この単語帳は彼の強靭な記憶能力を可視化したものだととらえることができる。
人間の赤ちゃんは、素晴らしい記憶能力を兼ね備えた言語獲得のプロなので、単語帳という武器を持って子供の言語獲得を追体験してるともいえる。
こういう視点でも、とても楽しめるゲームだった。

惜しかった点

前述の通り、ゲーム自体はとても楽しめたし、多くの人にお勧めして良いゲームだと思う。
一方で、設定が甘いなあ~と思う点もいくつかあった。
考察が足りず誤解してるだけかもしれないけど、10時間プレイした今の時点で思った惜しいポイントを残しておく。
一般にネガティブな内容はポジティブな内容よりも書きやすいので、良かった点よりも分量が多くなっているが、基本的には良いゲームであったことを再度強調しておく
以下はすべて、僕が期待したこととゲーム内容のズレに起因していて、「だからダメだ」という内容ではない。

物語が閉じてない

これは、未知の言語を推論するというゲームの特性上どうしても避けられないことだけど、僕らプレイヤーの文化的背景を用いてメタに推論しないといけない部分が多いのが気になった。
例えば、TRUE ENDと思われるエンディングを見るためには、「人間を生き返らせることは禁忌である」という僕らのメタな常識を用いなければいけない。
錬金術や蘇生といったファンタジー要素のある世界観で、僕らのメタな常識をどこまであてはめて良いのかと考えるとき、我に返ってしまう。

未知の言語が英語由来であることを考えれば(後述)、まあこれくらいの常識は当てはめても良いか、と後から納得することもできるが、「未知の言語を解読」という触れ込みを見てゲームに期待するものは、もっと深みのある人工言語と未知の世界観だと思った。
しかし、あまりにも常識から外れすぎた世界観だと難易度が上がりすぎてしまうので、そういう意味では良い難易度調整だと思う。

文法があいまいな部分がある

文法がやや曖昧だなあ~と思う点は随所にあった。
特に助動詞的用法と否定構文は、主語や目的語の位置が不安定でかなり気になった。
ゲームの制約上、三語文しか使えないので仕方ない部分もあるけど、もうちょっと文法は気にしてもいいのかなと思った。
特に、文法構造から品詞を推定して、そこから意味を割り出す、みたいな解読方法を期待していたので、文法があいまいなのは結構残念なポイントだった。
(もしかしたら一貫した規則があるのかもしれないので、それについては考察不足を認める)

ただ、文学的に主人公の視点に立ってみれば、主人公がそもそも三単語しか理解できていない可能性もある。
ほかのキャラクターは、僕らと同様に長い単語系列を喋っているが、主人公は分かりそうな単語を部分的に聞き取ってるだけで、それが三語文として画面に表示されてる、と考えることもできる。
例えばゲーム内のテキストも、英語で文を書いた後に、単語リストにある単語以外をすべて削除して作成してるかもしれない。
そうすると、ある程度同じ意味の文であっても単語の出現順が異なることがありうる。
だとすれば、わかる範囲で意味をとる、という制約としてゲームを楽しくする一要素として働いてるのかもしれない。
これについては、どこまで未知の言語に言語らしさを求めるかという視点と、主人公の認知能力をどのように画面上に表示しプレイヤーに伝えるか、というトレードオフの話になってくるので、難しくなってくる。

単語帳がヒントになりすぎる

これは賛否両論あると思う。
ゲームに出てくる単語は、単語帳としてメモしておくことができる。
この時、単語の並びが品詞順・意味順に並んでしまっている。
例えば、色を表す単語同士や、数を表す単語同士は隣接している。
ここから、隣り合う単語の推論が容易にできてしまう。

これを主人公の恐るべき言語理解能力として捉えてもいいけど、言語解読という楽しさを奪ってしまう要素にもなってると思う。
もちろん、このヒントのおかげでゲームを進めることができる、というユーザーがいるのも理解できるので、何とも言えない。

単語リストをシャッフルするというオプションは、もしかしたらあってもいいのかもしれない。

文字を見るだけである程度予測がついてしまう

文字を見た瞬間に、これはラテン文字の白黒反転だなと気付いてしまった。
また、金庫のアルファベットが26文字である点や、数詞の文字数と並びからシーザー暗号であることも一週目の段階で気付いてしまった。
ここから一気に暗号解読したら面白くないなと思って、エンディングをいくつか見終わるまでは忘れておいたけど、これは萎えるポイントかもしれない。

おそらくこの世界では英語が使われていて、主人公は英語をイチから解読しようとしてると解釈できる(エンディング後のムービーからもこれは確かだと思う)。
もしプレイヤーに暗号解読の素養があった場合(つまり、主人公は暗号解読の知識を持って復活している場合)、未知の言語を解読するという楽しみを感じられないまま物語を走り抜けてしまうことになる。
これは、ややもったいないと思う。

まあ、「英語由来か!」と気付くことがユーザーのモチベーションやヒントにつながったりするので、これも一部の言語マニアに迎合するよりは多数のライト層に訴求したほうが良いと思う。
作り込まれた人工言語をバックボーンとして言語解読ゲームを作ると、どうしても内輪感が出てしまうから、やっぱりこれくらいがちょうどいいのかもしれない。

一方で、すべての単語を英単語に復元できる特性のおかげで、自分が推論した単語がどのくらい正しかったかを答え合わせすることができた(だいたい精度8割だった)。
この復号による答え合わせは結構楽しくて、既存の自然言語に基づいて設計されているからこそ得られる快感だと思う。

7 days to end with you 感想」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 2021/02/07-02/13 | 熊日記

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